「天気の話です」

中学受験の時に、試験と、それから面接がある学校をいくつか受けていた。

中学受験の面接は大体両親か親のどっちかと受けるもので、試験の後にあって、面接は母親と受けていた。

面接の内容は本当に大したことなくて、面接じゃなくて「面談」と呼ばれていたかもしれない。わたしはこの面接が本当に苦手で、質問された時に全然よくわからないことを口走ってしまって、そして勉強もあまりしてなかったし、落とされていた。ていうか勉強もあまりしてなかったのに加えて受け答えもあまり得意じゃなかったから落とされていた。人と話すのは大好きだし得意だし、初対面の人と話すのなんて大好きだと思っているけれど、どうしてこういう場だとうまく話せないのだろうかというのは永遠のわたしの課題である。

 

受けたところのひとつに「お父さんと普段何の話をしますか?」という質問をされてたところがあって、それをわたしは鮮明に覚えている。

わたしのお父さんは忙しくてあんまり帰ってこなかったし、あとはかなり寡黙な人なのでお父さんと何かの議題についてたくさん話すということがそれまでも、そして今もあまりない。

本当にお父さんと話すことがなかったので、その時にパッと浮かんだお父さんとの記憶を頼りにして「天気の話です」と言った。

実家はマンションの角部屋でベランダがすごく広くて、ガーデニングと喫煙が趣味のお父さんは常にベランダにいて、だからわたしも追いかけるようによくベランダにいた。9階だったので千葉が一望できて、わたしは5歳くらいまでお父さんのことを千葉の王様だとおもっていた。(違った)

お父さんとベランダにいる時に、一度だけ空が分厚い雨雲が半分、晴天が半分になっていて「半分晴れで半分雨だね」「そうだね」という会話をしたときがあって、何歳だったかわからないけどそれがすごく印象に残っていた。

だから、「天気の話です」と答えた。今思えば「あまりお父さんと会うことがないので、」とかの、そういう言葉とか説明を付け加えればよかったのにとか思うけど、そんな思考回路はまだ備わっていなかった。

そしたら、面接官の先生に笑われた、返答を小馬鹿にされたのはその歳でもわかった。そのあと「例えばどんなことですか?」と聞かれて、わたしはちょっとムキっとなってしまって「晴れだね、とか雨だね、とかです。」といったら「そうですか〜」と言われて、面接は終わって、お母さんは恥ずかしそうにしていた。

何ていうのが模範回答だったのか、何て言ったらその先生たちの心に刺さったり、ウケたりするのかが今でも全然わからなくて本当に悔しい。天気の話はそんなにだめだったのか。このことを5,6年前くらいに突然思い出して、その時からあれはなんだったんだろうかと今でもたまに思い続けている。

 

結局中学受験はいろんなところに落ちまくって1校しか受からなかった。そこは受験が終わって合格をもらった後に1人1人と面談をするシステムでそれはすごくよかった。地下牢みたいな真っ暗な廊下を抜けた先にとても明るくて小さな部屋があって、そこでその時の校長先生と面談して、「うんうん」と話を聞いてくれてそれはすごく嬉しくて、今でもこの中学高校でよかったとずっと思っている。わたしはしきりに中学高校の話ばかりしてしまうけど、本当に母校が大好きだからだ、あんなにあたたかくて全員の思いやりで成り立っている安心できる空間はこの世にそんなになくて、だからわたしはお父さんと天気の話をしていてよかったのかもしれない。